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マイノリティの悲哀
「マイノリティの悲哀」なんて気取って(汗)つけてみたけど、本人、まったく悲哀なんて感じてはいないのですけどね。左の写真、この10年ほどで四国で撮影した動物たちです。四国には、もともと大向こうを張る主役級の生き物はいないから、ってこともあるけど、見事に脇役級、マイナーなものたちが勢ぞろいしていますでしょう。もともと自分は、誰もが憧れるものにはそれほど興味はなく、身近でひっそり生きているものたちに心惹かれるところがあって、それは、子供の頃から、古希を過ぎたいまでも変わってはいない。世間の多数からは見向きもされないような脇役たちの生活は、ほとんど紹介されていないのだから、のめり込めばのめり込むほど、初めて目にする新鮮なシーンばかりで、背中の毛が逆立つほど感激するし、面白いのですよね。ただし、脇役を撮っていては、けっして日の当たる場所にはでられないので、プロ志向の良い子は、反面教師にしたほうがよろしいでしょう。わたしが写真を始めた頃は、「アニマ」なんて動物専門の雑誌が創刊され、ほかにも動物や野鳥を載せてくれる雑誌はいくつかあったのですけどね。5年くらい粘って撮りためた写真を持ち込めば、10ページくらいはもらえたので、稼ぎはともかく発表の場所はあったのだけど、今の時代は、雑誌自体がないのだから、やっぱり悲哀を感じてしまうかなあ。 -
ニホンイタチ(1)
「α7R3 FE 16-35mm F4 ZA OSS ストロボ1灯」 なんてひどい子供だったのかと、いまでも申し訳ない気持ちに苛まされる。山奥でひとりっ子だったので、遊び相手を、鳥や動物に求めたのだと思うのだけど、ちょっと度が過ぎていた。いつもひとりで山中を歩き回り、大木や古木があれば、ひとつひとつ樹洞を覗き込んで、生き物を捕まえることに夢中になっていたのである。ただ捕まえることが最終目的ではなく、飼い慣らして家の周りに放し飼いにして、一緒に遊びたいと思ったのだ。そのころは、だれも存在を知らなかったハクビシンを捕まえたのも、そんな巡回の途中でだった。首根っこを掴んで、喜んで帰っていたら、次第にずれてきて、人差し指と中指を齧られたけど、けっして逃しはしなかった。狂犬病などの病原菌を持っていれば、とっくにこの世とはおさらばしていただろう。ムササビが樹洞にいたときも、うれしくって手を出したら、やっぱり噛まれて、ムササビには逃げられて。イタチも山道の曲がり角でばったり出くわして、驚いたイタチは、傍の石垣の穴に逃げ込んだはいいが、奥行きはない穴だったので、顔だけ出して逃げようか迷っていた。しかし、イタチに噛まれると指は食い切られそうだとおもい躊躇しているあいだに逃げられてしまった。そんなことを高校生になっても続けていたのだから、呆れるばかりである。わたしの写真は、その延長線にあるので、なんらかの使命感があるわけでも、自然について知らせたいわけでもないのだ。ただただ、カメラに持ち替えて、楽しく遊んでいるだけのことである。 昼間も行動するイタチは、目にする機会は多い動物だ。とくに、川に潜って魚を捕らえる姿は、なんどか見かけたことがある。そんなこともあって、動物の写真を撮り始めたときには、撮ってみたい場面であった。一番最初に挑戦したのは、近所の川でだった。朝見回っていると、いつも何かが水から上がったように濡れている石があった。きっとイタチに違いないと、カメラとセンサーを仕掛けて、翌朝行ってみるとシャッターが落ちている。ドキドキしながら現像に出すと、写っていたのはササゴイだった。真冬なのに、居残っていたらしい。次に挑戦したのは、20年ほど経ってから、八ヶ岳でのことだ。コミミズクやフクロウが出てくるのを待っている間、同じところに車を止めていたら、いつも同じコースを下りてくるイタチがいた。暇に任せて観察していると、雪解け水で小さな谷になっている流れで、水に潜ったりしていた。そんな谷に魚がいるわけもないので、サワガニやカエルでも探していたのだろう。試しに、水槽を持ち込んでセットしておいたら、潜っている後ろ姿が写っていた。これなら、うまくすれば撮れそうだと思ってさらに20数年、やっとイタチの水中写真を撮ることができた。 -
ニホンイタチ(2)
「α7R3 FE 16-35mm F4 ZA OSS ストロボ1灯」イタチの水中写真も、最初は、ワンカット気に入った写真が撮れればいいや、ってくらいの軽い気持ちだった。でも、なかなかうまくいかずに、試行錯誤&悪戦苦闘を続けること5シーズンになってしまった。冬の間の5ヶ月×5年だから、25ヶ月か、ま、途中2シーズンは全く撮れなかったけど、撮れなくても足掻いていれば見えてくることもあるんですよね。魚を襲うイタチなんて、とても撮れるとは思えなかったが、あるとき、ああ、こうすればいいのかと気がついて、それからは襲う瞬間を狙ってばかりだった。けど、結果的には失敗。というのも、眠っている魚に忍び寄って、ライオンのようにがぶりと噛み付くものとばかり思っていたのに、写っている画像をみれば、どうも様子が違う。左の2枚目の画像なんか、カワムツにがぶりといっているはずなのに逃げられている。イタチは泳いでいる魚を捕らえているんじゃなくて、イタチの姿に驚いてパニックになり岩穴に頭だけ突っ込んでしまっている魚を捕らえてるんじゃないかなあと。ま、サンプルがそれほど多くはないのでなんともいえないんだけど。 -
ニホンイタチ(3)
「EOS7D2 SIGMA 10-20mm F3.5 EX DC HSM ストロボ1灯」イタチの写真を撮ろうと決めてから、どうせなら水の綺麗な川で撮りたいと、病的なまでに透明度の高い仁淀川の支流をいくつか調べてまわったのだけど、なかなかイタチの痕跡は見つからなかった。仁淀川支流の安居川に通い始めた10年間で、3度魚を捕らえたイタチを目撃しているので、イタチがいないわけではないのに、痕跡が見つからない。水清ければ魚棲まず、とは昔から言われていることだが、たんなる比喩的なことではなく、透明度の高い上流部は、餌が少ないらしく、魚はほんとに少ない。そんなことで、いつも同じ場所に潜ってはいないのかなと半ば諦めかけたころ、やっと1箇所、潜っているらしき場所を見つけた。それは、当たりで、潜る姿や、帰ってくる姿を撮ることができた。そのワンカットが、このウグイを捕らえて川底を走って帰ってきたイタチの写真である。イタチは、指の間に小さな水かきがあり、泳ぐのも得意なので、てっきり泳いで帰ってくるものと思っていたのに、走って帰ってきたのには驚いてしまった。何を笑うかによってその人間がわかる、って言い回しがありましたかね。その伝で言えば、イタチが水中を走っているのを見て、とてつもなく面白がっている自分って、どうなんだろう。やっぱりマイノリティなんだろうなあ。 -
ニホンイタチ(4)
「α7R3 LAOWA 15mm F2 ZERO-D ストロボ1灯」大きなカワムツを捕らえて帰ってきたイタチ、このワンカットこそ、5シーズンに渡る試行錯誤の集大成とも言えるもの、と自分では自負している。レンズは15mmの最短付近、ピントの合う範囲は、ほんの1cmくらい。カメラは水槽に入れての固定なので、構図的に最適の位置にイタチを配するのは奇跡に近いのだ(と自画自賛)。さて、では、その試行錯誤って部分を、ちょっと裏側からというか、撮影小物の面から。機材は進化すればするほど撮影は楽になるし、いままで撮れなかった場面も撮れるようにはなる。しかし、変な進化をされると、まったく使えない。夜間の撮影ということで、外部電源が使える国産のフラッシュをものすごく久しぶりに2個買って、さあ撮影と張り切ったのはいいが、これが全く使えない。わずか3分操作しなかっただけで、電源がオフになってしまう省エネ設計になっていたのだ。たまらずメーカーに問い合わせたら、省エネモードをオフにはできないという。使えないものを持っていてもしょうがないので、二束三文で友人に引き取ってもらって、高い買い物でした。けっきょく、省エネなんて考えのなかったころの中古のフラッシュをいくつか買い込んで、それでなんとか撮影。役に立ったのは、トレイルカメラとかセンサーでした。イタチが、どのような行動をしているのかを知るには、トレイルカメラは必須です。どの場所から潜って、どこに帰ってくるのか。それから、潜っている時間は、どれくらいなのか。ちなみに、魚を捕らえて帰ってきた最短は3秒、長くても10秒ほどでした。平均的には4、5秒というところ。で、この情報をもとにセンサーを仕掛けるのですが、センサーも、検知してから1〜10秒の間でシャッターを押せるものとか、検知してから1〜10秒後にシャッターを切り始めるものとか、いくつかプログラムを変えて作ってもらったものを組み合わせたりしてその時々の最適解をだして使ったりと。さて、そのようにしてこれぞ!というカットが撮れたとしても、世間の評価は、自分の評価とは一致しない。ま、それでいいんだけどね。 -
ニホンイタチ(5)
「α9 FE 16-35mm F4 ZA OSS」野鳥や動物の撮影は、写真になる場所で、撮りやすい個体にであうこと、それにつきます。カメラマンの腕なんてのはとるに足りない。そういう点では、撮り始めて4年目、2個体が同じ場所にでてくることがあって、しかも、昼間も夜も同じように行動していたので、写真を撮るには最高の条件でした。イタチは、単独で動くし縄張り意識も強そうなので、きわめて珍しいことだったけど。しかも、少し離れて座っていると警戒もしないし、姿を現せば、川の決まった場所数カ所には必ず潜っていくのだから、こんな好条件は早々あるものではない。センサーを使っての自動撮影だってやるのだけど、もともとの動機が、生き物と遊びたいのだから、できる限り自分の目で見て、自分でシャッターを押すことにしている。しかし、イタチが魚を捕らえて水から上がるところを何度か狙ってみた結果、とても難しい。潜るところから見ていて、数秒後には帰ってくるのだから、いいタイミングでシャッターを押せると思っていたのに、反射神経が鈍いのか、まったく間に合わない。水面に顔が見えた瞬間にシャッターを押したつもりでも、間に合っていないのだ。けっきょく、目で見て観察はするのだけど、シャッターはセンサーに任せて撮ったのが、この画像。 -
ニホンヤマネ(1)
「EOS-1DX EF400mm f/2.8L IS II USM」写真を撮り始めたころ、富士山周辺で野鳥ばかりでなく、テンやモモンガ、ネズミやヤマネを追いかけていた。とくに、ヤマネは熱心に探して、巣も、それまで知られていた樹洞の巣ではなく、夏の間は潅木の枝の間などに、カヤネズミのような巣を作ることを知った。当時は、まだ知られていなかった情報なのか、研究者に知らせると、すぐに見にきたりしたものだ。小さな写真の左がヤマネが作った巣、右は、メジロの巣を補強して使っていたもの。しかし、ヤマネは完全夜行性だし、他の動物も夜の写真になるものだから、けっきょく、野鳥の写真がメインになってしまった。それから幾星霜、土佐に帰ってから、あれほど憧れ続けた昼間のヤマネに遭遇するとは、感激のあまり心臓が止まりそうだった。昼飯にラーメンを食っていると、目の前の潅木に小さな茶色いものが登ってきた。最初、ミソサザイだと思っていたけど、どうも様子が違う、ひょっとしたらとカメラを出してのぞいてみると、ヤマネだった。標高1200メートルあたり、4月4日、場所、時期からみて冬眠から目覚めたばかりでお腹が空いていたのではないだろうか。昼間行動するヤマネに遭遇するのは、宝くじに当たるよりも確率は低いこと、それからの3時間ほどは無我夢中だった。歳をとれば、それほど感激することもなくなるものだけど、この時ばかりは、写真を始めたころと同じ、焦りまくって汗に浮いての撮影だった。 -
ニホンヤマネ(2)
「EOS-1DX EF400mm f/2.8L IS II USM」ヤマネが、最初に現れた地点から、3時間後に巣穴に帰るまでの移動距離は、ほぼ100メートルほど。その間に、キブシの木は5本だったか、そのすべての花穂をひとつひとつ渡り歩き、花を食べ、虫がいれば捕らえて食べてました。途中、キブシの途切れたところでは杉の木に移って、移動してましたね。その移動の様子を見ていると、キブシの匂いを追いかけているようではなく、どこに何が有るかを把握しているようでした。小さい動物なのに、餌のあるところ、自分の帰る巣穴、よくぞ覚えているものです。 -
スミスネズミ(1)
「α7R3 FE 16-35mm F4 ZA OSS」富士山麓でのネズミたちは、ヒメネズミにアカネズミ、この2種とはよく遊んだけど、やっぱり夜行性なので、出会いたかったのはカゲネズミでした。しかし、10年ほど通って森の中をうろついていたのに、一度も姿を見たことはなかった。それが、ヤマネと同じく、四国で偶然遭遇したのですから、縁というのは不思議なものです。その昔は、中部以北のものをカゲネズミ、それより西のものをスミスネズミと呼んでいたけど、いまはスミスネズミに統一されているようですね。四国は、温暖化の影響なのかどうなのか、鳥たちはけっこうすごい勢いで少なくなっていて、コマドリも限られた山域にしかいなくなってしまって。そんななかで、車からでも観察できるという楽チンな石鎚山にでかけたのですが、ブナ林の地上近くを、小さな黒いものがちょろちょろ動き回って、視力はあまり良くないので、最初はミソッチョだとばかり思い込んで気にもしていなかったけど、これがスミスネズミだったのですね。もう、コマドリなどはそっちのけ、ひとりスミスネズミ三昧のはじまりでした。 -
スミスネズミ(2)
「α9 FE 400mm F2.8 GM OSS + 2X Teleconverter」 スミスネズミは、ハタネズミやヤチネズミと同じく、昼間も活動するタイプのネズミだ。しかし、昼間も活動すると言っても、主なる生活圏は地下なので、人間が目にするのは、食事のために地上にでてきたときに限られる。最初に見つけたときは、夕方でもあったので動きは大胆で、巣穴から離れた場所のヤマアジサイの新芽を食べていた。ほかに確認できた食草は、ワサビ、オタカラコウ、メタカラコウ、ヤブレガサ、スゲ、それから名前を知らない山草など、ほとんどなんでも食べているようだった。さて、自分のことをマイノリティと自覚している所以は、たんにマイナーなネズミに興味をもつことに止まらない。例えば、一面の苔の間に生えている山草が、風に揺れているのではなく、ちょっと変な揺れ方をして、するすると苔の中に引き込まれてしまう。スミスネズミがトンネルの中に引き込んで食べているのだ。そんな光景をとても面白いと思う。また葉っぱをくわえてトンネルに走り込む姿にワクワクしている自分がいる。こういうの、どうなのかなあ。 -
スミスネズミ(3)
「α9 TAMRON E20mm F2.8 F050」広角レンズで、鳥や動物を、その生息する典型的な環境の中で撮りたい、という願望は、写真を始めた当初から持っていた。広角レンズで小さな生き物を撮ろうと思えば、20cm以内にカメラをセットしないといけない。しかし、このような近接撮影では、カメラのシャッター音というのは致命的になる。警戒させないようにと、何度か消音ケースなども作ってみたけれど、どれも上手くいかなかった。なんとかならないものだろうか、なんてぼんやり考えて、あっという間に数十年が過ぎ、世はミレーレス時代に。やっと無音の電子シャッターが使えるようになった。ここぞとばかりに、広角レンズでの撮影を始めてみたのだけど、これが実に難しい。広角レンズというのは、基本デフォルメの世界なので、違和感なく構図を決めるのは、けっこう難しい。しかも、大きな木の森であっても、少し離れた木々は小さな木にしか見えない。なかなか森の雰囲気を捉えられないのだ。そのうえに、ガスや霧などの自然現象と組み合わせるとなると、さらに難易度は高くなる。スミスネズミは、1日、2、3回餌を食べに巣穴の外に出てくる。外に出ている時間は、一回につき5分前後である。そのときの光線状態、自然現象などは、努力でなんとかできるものではない。ただただ、ベストの組み合わせを求めて、忍耐あるのみ、という愚直の極みの撮影でもある。 -
ヤブサメ
「EOS 7D Mark II EF400mm f/2.8L IS II USM」視力が衰えているかどうかは、自分でも自覚はできる。聴覚については、だれかと一緒でないとわからない。年をとれば、高音域が聞こえなくなるというのは、知識としては持ってはいた。しかし、それほど年をとったという自覚がないのだから、聴覚が衰えたのだとは考えもしなかった。それでも、ヤブサメのさえずりが聞こえない年が何年も続いてしまうと、さすがに疑ってみないわけにはいかなくなった。そこで、耳のいい友人としっしょに、ヤブサメのさえずりを聞きに言ってみれば、やっぱりヤブサメの高周波音のさえずりは聞こえなくなっていた。もはや、記憶の中でしか、ヤブサメのさえずりは聞けないのかと、すくなからず落ち込んでしまった。しかし、さえずりが聞こえなくなると、注意力や集中力は増すのかもしれない。5月、四万十川沿いを走る国道に車を止め、鳥の声に耳を澄ませていると、聞き覚えのある微かな声が耳に、そっと藪の向こうをのぞいてみれば、ヤブサメの巣立ちっ子たちだった。鳥の写真を撮り始めて半世紀近く、その間に、何度か足元から飛び立つヒナに驚かされた。鳥のヒナたちは、ときどき寄り集まって、ヒナ団子になる。エナガが有名だが、ヤブサメも同じように団子になって休む。ただ、エナガとは違って地面に近いところで団子になるので、気がつくのは一斉に飛び立って逃げる時になる。いつかは撮りたいと思って半世紀である。これがラストチャンスかもしれないと、超望遠を背中に、ヒナたちの後を追うことに。転げおちれば重大事故になるような谷の周りを付かず離れず、見失わないように30分ほど付いて回ると、なんのことはない、最初に見つけた場所に帰ってきてヒナ団子になった。 -
ヤイロチョウ(1)
「α7R3 FE 12-24mm F4 G」 -
ヤイロチョウ(2)
「α9 FE 400mm F2.8 GM OSS」 -
ヤマドリ
「Panasonic GX8 OLYMPUS M.12-40mm F2.8」 -
カワガラス(1)
「Panasonic GX8 LUMIX G VARIO 7-14/F4.0」 -
カワガラス(2)
「EOS 7D EF-S10-22mm f/3.5-4.5 USM」